秋の午後、河口の堤防に腰を下ろした。
足元でさざ波が踊り、アオイソメの先で小さな命が待っている。
――ハゼ釣りは、「一匹の魚」と「ひとときの静寂」をつなぐ時間だ。
この魚ほど、釣りの原点を教えてくれる相手はいない。
道具はシンプル、場所も街のすぐそば。それでいて、竿先を震わせる一瞬の感触は、まるで人生の縮図のように深い。
この記事では、初心者でも最短で釣果を上げられるように、河口・岸辺でのハゼ釣りを一から解説していく。
潮風の匂いとともに、あなたの休日を海へ導こう。
ハゼとは?|河口で出会える“小さな海の旅人”
ハゼ(マハゼ)は、日本全国の河口や浅場に生息する小型魚で、川と海の境界=汽水域を好む。
春に孵化し、夏にかけて河口へと成長していく「海と川を行き来する旅人」だ。
東京湾奥や相模川河口、木更津港、名古屋港などは、昔からハゼ釣りの名所として知られている。
晩秋には“落ちハゼ”と呼ばれる大型個体が海辺へ下るため、河口の堤防は釣り人で賑わう。
「潮風が頬を撫で、波が竿を揺らす──ハゼは、海辺の季節を告げる魚だ。」
ハゼ釣りのベストシーズンと時期ごとの特徴
ハゼ釣りは、実は一年中楽しめる。しかし、最も楽しいのは初夏から晩秋にかけてだ。
- 5月〜6月:若ハゼが釣れ始め、数釣りが可能
- 7月〜9月:河口が最盛期。干潟や護岸で好釣果
- 10月〜12月:落ちハゼシーズン。型が大きく食味も抜群
潮がよく動く時期は、ハゼの活性も高い。特に満潮前後2時間、干潮からの上げの2時間が狙い目だ。
「潮の音が変わるとき、竿先が震える。」
その瞬間が、ハゼ釣りの“時合い”である。
ちょい投げ・ミャク釣り・ウキ釣り・ハードルアーの釣りの基本
ハゼ釣りの初心者が理解しやすいように、下の4つの基本スタイルを説明する。
仕掛けの全体構造、餌の付け方、ルアーの動かし方まで、一目で釣り方の違いを理解できるだろう。
- ちょい投げ仕掛け(天秤仕掛け)
・構成:竿先 → スナップ付きサルカン → 天秤オモリ(片天秤またはジェット天秤) → ハリス15cm(目安) → ハゼ針(7〜9号目安)
・解説:キャスト後はオモリを底に着けたまま、ゆっくりズル引き。天秤のアームが仕掛けを安定させ、餌が自然に動いてハゼを誘う。
・ポイント:岸から5〜10m先を狙い、底を切らずに“這わせる”イメージで引くのがコツだが、重い天秤を使うと遠投も可能だ。 - ミャク釣り(中通しオモリ仕掛け)
・構成:道糸 → 中通しオモリ(0.8〜2号) → サルカンまたはハリス止め → ハゼハリス(7〜9号目安)
・解説:竿先や指先でアタリを直接感じ取る手感度重視の釣り方。
中通しオモリを使うことで糸の動きがスムーズになり、ハゼが餌を吸い込む際の抵抗が少ない。
河口や運河など流れのある場所でも、底をキープしながらアタリを取りやすい。
・ポイント:仕掛けを底に軽く着けた状態で、竿先を「トントン」と小刻みに動かす。
アタリは「コツッ」「モゾッ」と小さく伝わる——その微かな振動を感じ取って合わせるのがコツ。 - ウキ釣り(餌の付け方の基本)
・構成:道糸 → ウキ止め → シモリ玉 → 小型ウキ → ハリス10〜15cm → ハゼ針(7〜9号目安)
・餌:アオイソメやジャリメを1〜2cmにカットし、針の軸に沿わせて通し刺し or ちょん掛け。
・解説:長すぎると飲み込みづらく、短すぎると動きが弱まる。
・ポイント:針先を少し出す形を意識すると、初心者にも分かりやすい。 - ハードルアーの釣りの基本
・構成:軽量スピニングタックル+小型クランクベイト(2〜3cmクラス) 代表例はダイワ「ハゼクランクDR」やジャッカル「ちびクランク」など
・解説:餌を使わず、プラグを底スレスレにリトリーブしてハゼのリアクションバイトを誘う。リップで底を小突くように引くと、砂煙が立ち、ハゼが興味を示す。
・ポイント:水深50cm〜1m前後の浅場ではスローリトリーブ+ストップ&ゴーが有効。流れのある河口では、ルアーを流れに乗せて自然にドリフトさせるとヒット率が上がる。
・補足:ルアー釣りは手返しが早く、群れの位置を探りやすい。釣れたハゼが大きく、掛かりどころも浅いためリリースしやすいのも特徴。
👉 補足追加:水深のあるポイントでは、ルアーの手前にオモリを付けたキャロライナリグでクランキングする方法もある。これにより、深場でも底をしっかりトレースでき、アピール力を維持しながらハゼの反応を引き出せる。

初心者でも釣れる!河口・海辺のポイント選び
ハゼは“足元の魚”。まずは岸壁のすぐ下や護岸際のわずかな段差を狙うのが基本であり、足元や近場で十分だ。しかし近年は釣り人が多く、ハイプレッシャーな状況になりがちだ。もし反応が無ければ、遠投をして広く探ってみよう。
広く探ることで、群れの位置や底質の変化を見つけやすく、釣果を伸ばせることもある。
特に潮の流れが緩むタイミングや、照度の低い朝夕の時間帯は、活性が上がりやすい。初心者でも、場所選びを意識するだけで大きく釣果が変わる。
- 流れ込み付近:
雨後などで生活排水や小川が流れ込む場所は、プランクトンや小エビなどの餌が豊富に集まる。
こうした場所はハゼの“餌場”となりやすく、潮の動きがある時間帯には次々と群れが入ってくる。
足元でも良型のハゼが狙え、潮の動きとともに群れが入れ替わる。 - 橋脚付近:
水温が安定しているため、ハゼがじっと潜んでいる。
特に潮通しの良い橋脚では、餌が流れに乗って運ばれてくるため、魚影が濃い。
満潮前後にかけてアタリが増える傾向がある。 - 干潟の境界線:
干潮時に現れる泥地と、まだ水をかぶっている浅瀬の境目はハゼの通り道。
満ち潮の上げ始めや下げ止まり前後に群れが動くことが多く、胴付き仕掛けやハゼクランクなどで探ると効果的。
秋口には大型の個体も見られ、ハゼ釣りのハイシーズンとなる。 - ゴロタ場・石積み護岸:
石の隙間にはカニやゴカイなどの小生物が多く、ハゼが好んで潜むエリア。
日中でも日陰や石の陰に身を潜めていることが多く、軽めのオモリで隙間を丁寧に探るのがコツ。
根掛かりしやすいため、仕掛けをゆっくり引き、アタリがあっても強く合わせないのがポイント。 - 船溜まり:
船が係留されている港内や入り江の奥まった場所も狙い目。
潮の流れが緩やかで、船底や係留ロープ周辺にハゼが集まりやすい。
特に夏から初秋にかけては、船影の下が日陰となり、水温が安定しているため好条件。
投げすぎず、足元〜5m圏内を丁寧に探るのが効果的。
代表的なポイント:
旧江戸川河口、荒川河口、相模川、名港河口、そして千葉県では木更津港や小櫃川河口も好ポイント。
どの場所でも共通して狙い目となるのは、満潮から下げ始めの1〜2時間、干潮から上げの1~2時間。潮の動きが出ると同時に、ハゼが積極的に餌を探し始める時間帯だ。
釣りやすい足場を選び、安全装備を整えて楽しもう。

潮と時合いを読む|釣果を左右する3つのタイミング
- 満潮前後2時間: 水位がぐんぐんと上がり、干潟や岸際のカキ殻帯に小魚やゴカイが入り込む。このタイミングでハゼは活発にエサを追い始める。特に満潮1時間前から満潮後1時間の「潮止まり前後」は、岸寄りの浅場を丹念に探ると好反応を得やすい。
- 上げ潮の始まり、下げ潮の始まり: 河口域では、流れ出す潮に乗って小エビやミミズ類が流下し、ハゼの捕食スイッチが一気に入る。水の動き出しが合図だ。仕掛けをやや下流側に流し込み、自然に漂わせるイメージで狙うと良い。
- 朝まずめ・夕まずめ: 日の出前後と日没前後、光量が変わる“わずか30分”の時間帯。ハゼは警戒心を解き、浅場で活発に餌を追う。静かな水面に小さなアタリが出始めるその瞬間、まるで海が息を吹き返すような感覚を味わえるはずだ。
潮見表で潮汐と風向を確認し、「潮が動く時間」を釣行計画に組み込むこと。それこそが、経験者と初心者を分ける“上達の第一歩”だ。
実践編:仕掛け投入からアタリの取り方まで
キャストは肩の力を抜いて、柔らかく弧を描くように。着水したら糸を張りすぎず、オモリが底を“トン”と叩く感触を確かめる。そこからが勝負だ。
竿先で軽く小刻みに誘いを入れ、底をゆっくりとズル引く。
ただ待つのではなく、「止め・誘い・止め」のリズムを刻むことで、泥の中に潜むハゼの興味を引き出す。ほんの数cm動かして止める──その繰り返しが生きたエサの動きを演出し、躍動感を与える。
「コツン」と伝わる微かな衝撃。焦らず、1秒だけ呼吸を置く。ハゼがエサをしっかりくわえるその“間”を待ってから、静かに竿を立てるのがコツだ。 その瞬間、穂先に伝わる小さな生命の鼓動が、海との対話になる。
「その一瞬を感じられる人だけが、ハゼに出会える。」
もしアタリが途絶えたら、移動しながら探る。底質や潮の流れが少し変わるだけで、群れの位置も変わる。釣り場を“歩く”こともまた、釣果を引き寄せる技術のひとつだ。
よくある失敗と“釣れない理由”を解説
- エサが長すぎてハゼが吸い込みづらい: 青イソメを長く付けすぎると、ハゼは先端だけをついばみ、針掛かりしない。1〜2cmに切り、チョン掛けで動きを出すと、口の奥まで吸い込みやすくなる。
- 仕掛けが底から浮いている: オモリが軽すぎる、または潮流が速すぎると、ハリが底から離れ、ハゼの捕食ゾーンを外してしまう。仕掛けは常に「底を感じる」重さに調整しよう。軽くズル引きして、泥が舞う感触が理想だ。
- 潮止まりで粘りすぎている: 潮が動かない時間帯は、ハゼの活性も極端に落ちる。潮が止まったら、潔く休憩やポイント移動を検討した方が効率的だ。潮の動き出しを待つより、次の“流れがある場所”を探す方が早い。
- 水温低下時に日陰を狙っている: 秋の冷え込みが進むと、水温のわずかな差が釣果を分ける。冷たい日陰ではなく、日差しが当たる浅場にハゼが集まる傾向がある。日中は“陽だまりの水”を意識して探ろう。
そして何より、「釣れないポイントは早々に見切りをつけて移動する」ことが、結果を出す最大のコツだ。同じ場所に固執せず、水深・底質・潮の動きを変えていく。それが、ハゼ釣りにおける経験者の“勘”を磨く最短の道である。
ハゼを締める、持ち帰る、そして美味しく食べよう
釣ったハゼを締める
釣り上げたハゼは、その瞬間から“味の勝負”が始まる。
海から引き上げたら、すぐにエラの付け根付近の背骨をハサミで断ち切ると、簡単に締める事ができる。血抜きをするとともに余計なストレスや筋肉の暴れを防ぎ、身の締まりと透明感を保つことができる。
締めたハゼは、海水氷(海水を混ぜた氷水)に入れて冷やす。そして持ち帰る際は、海水を捨ててからタオルや新聞紙、空気を抜いたジップロックなどにくるみ、しっかりと冷やしながら持ち帰るのが鉄則だ。直接氷に触れさせず、ほどよく湿度を保った状態で運ぶことで、釣り場の鮮度をそのまま家庭に連れて帰ることができる。
ハゼを食する
自宅に戻ったら、まず魚の大きさを見極めよう。
小型のハゼは、衣をまとわせて油に泳がせれば、骨ごとサクッと食べられる唐揚げが最高だ。軽く塩をふって、熱々のまま頬張れば、潮風の香りとほのかな甘みが舌の上で踊る。まるで浜辺で風に吹かれているような、幸福な味が広がるだろう。
また、じっくりと煮詰めれば、小さな体に旨みが凝縮された甘露煮に。白いご飯にも、晩酌の肴にもよく合う。
一方、大型のハゼは、その肉厚な身を活かして天ぷらや刺身に仕立てたい。ふっくらと膨らむ白身は、噛むたびに淡い旨みを湛え、心までほぐしてくれる。
とくに、締めた瞬間から丁寧に扱ったハゼなら、ぜひ刺身にも挑戦してほしい。透明感のある身を薄く引き、わさび醤油を添えれば、口の中でとろりととろける。その繊細な甘みは、まさに“海がくれた贈り物”と呼ぶにふさわしい。釣りたてか寝かせるかは、あなたの好み次第だ。
ただし、生食の際は寄生虫(特に顎口虫など)に注意が必要だ。必ず新鮮な個体を用い、十分な処理(まな板を変える、3%の氷塩水で洗う、冷凍処理を行うなど)をしたうえで楽しもう。釣り人の手で“命を美味しくいただく”ための最後の責任でもある。
そしてもう一つ、釣り人の特権がある。骨せんべいだ。三枚におろしたあとの中骨を、低温の油でじっくりと揚げる。すると、香ばしい香りとともに、軽やかな歯ざわりが立ち上がる。ビールや冷酒を傾けながら一枚かじれば、今日の潮の匂いがふっと蘇るようだ。釣りの余韻を味わうには、これ以上のつまみはない。
「小さな一匹に、大きな休日の記憶を詰め込もう。」
ハゼは、ただの小魚ではない。その一匹に、釣り人の静かな情熱と、海との語らい、そして“生かして味わう”という哲学が息づいている。

河口でのマナーと安全対策
- 立入禁止区域には入らない
どんなに好ポイントに見えても、立入禁止の場所には絶対に入らない。そこには崩落や潮流、管理上の理由など、命を守るための事情がある。安全を軽んじて得た一匹は誇れない。釣り人の品格は、竿を出す前の判断に宿る。 - 潮位変化・滑りやすい足場に注意
干満差のある場所では、満潮時と干潮時で足場が変わる。濡れた岩や苔の上は特に危険だ。ウェーダーや靴底を確認し、滑りにくい装備で臨もう。海は常に姿を変える――その変化を読むことも釣りの技術だ。 - ゴミは必ず持ち帰る
釣り糸一本、袋ひとつでも、海の命を脅かすことがある。自分のゴミはもちろん、見つけたゴミも持ち帰る心を。釣り場をきれいに保つことが、次の釣り人への“静かな贈り物”になる。 - 夜釣りではライフジャケットを着用
夜の海は足元が見えにくく、危険の兆しに気づきにくい。ライフジャケットを着け、ヘッドライトや反射材を備えること。安全意識こそ、釣り人が持つべき最大の“装備”である。
美しい海は、釣り人の心を映す鏡。
“釣る楽しみ”の裏には、“残す責任”がある。
潮風に包まれながら一匹を待つ時間――その静けさの中で、私たちは自然と約束をしている。
「この海を、次の世代へ渡していこう」と。
まとめ|「ハゼが釣れる海辺には、やさしい時間が流れている」
釣りとは、魚を釣るためだけの行為ではない。
自然と向き合い、自分の心を整える時間でもある。
河口に立ち、潮風を受けながら竿を握ると、
波の音に包まれ、日常のざわめきがゆっくりと遠のいていく。
海面を見つめているうちに、心の中にも静けさが広がっていく。
潮の満ち引きや風の変化を感じながら、
ただそこに立っているだけで、自然と呼吸が整う。
海はいつも、釣り人の心を穏やかにしてくれる。
ハゼが釣れる海辺には、やさしい時間が流れている。
穏やかな潮の中で竿を出せば、きっと心もゆるむはずだ。
さあ、次の休日は、あなた自身の“一匹”を探しに行こう。
参考情報・引用元
※本記事は現場経験と公的・メーカー資料をもとに作成しています。
実釣時は地域ルール・安全規制に従い、環境保全を心がけましょう。

